制作背景から見る、映画『ブレードランナー』
「ブレードランナー」は1982年に公開されたアメリカ映画です。監督リドリー・スコット、原作はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をもとに創られました。
「ブレードランナー」は1982年に公開されたアメリカ映画です。監督リドリー・スコット、原作はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をもとに創られました。
ストーリー概要は以下参照
2019年、地球環境の悪化により人類の大半は宇宙に移住し、地球に残った人々は人口過密の高層ビル群が立ち並ぶ都市部での生活を強いられていた。宇宙開拓の前線では遺伝子工学により開発された「レプリカント」と呼ばれる人造人間が、奴隷として過酷な作業に従事していた。レプリカントは、外見上は本物の人間と全く見分けがつかないが、過去の人生経験が無いために「感情移入」する能力が欠如していた。ところが製造から数年経てば彼らにも感情が芽生え、人間に反旗を翻す事態にまで発展した。しばしば反乱を起こし人間社会に紛れ込む彼等を「処刑」するために結成されたのが、専任捜査官“ブレードランナー”である。
タイレル社が開発した最新レプリカント”ネクサス6型”の男女6名が人間を殺害し脱走、シャトルを奪い、密かに地球に帰還し潜伏していた。人間そっくりなレプリカントを処刑するという自らの職に疑問を抱き、ブレードランナーをリタイアしていたデッカードだったが、その優秀な能力ゆえに元上司ブライアントから現場復帰を強要される。捜査のためにレプリカントの開発者であるタイレル博士に面会に行くが、タイレルの秘書レイチェルの謎めいた魅力に惹かれていく。
レプリカントを狩ってゆくデッカードだが、やがて最後に残った脱走グループのリーダーであるバッティとの対決の中で、彼らが地球に来た真の目的を知る事になる。via wikipedia
ブレードランナー予告編
作中の未来的な世界のイメージは小説、映画、アニメ、マンガ、ゲームなど後の様々なメディアのSF作品に決定的な影響を与えました。
ハードSFを実現化した映画監督
ブレードランナー以前のSF映画では宇宙が舞台であり、宇宙人との交流や戦闘をするようなスペースオペラが主流でした。
スペースオペラとは、宇宙空間を舞台にした壮大な叙事詩を描いた作品を言います。
映画ブレードランナー以前SFの代表的作品は「スター・ウォーズ」や「スター・トレック」などがあるでしょう。
以前に紹介した「2001年宇宙の旅」もその一つです。また最近の映画では、エドガー・ライス・バローズ著のSF小説の古典「火星のプリンセス」を映画化した「ジョン・カーター」なども含まれると思います。
スター・ウォーズ旧三部作予告編
ジョン・カーター予告編
しかし映画ブレードランナーではこのようなSFの醍醐味である宇宙は登場せず、原作のハードSFを基盤に未来都市の中でのストーリー展開になります。
ハードSFは人間の内面を掘り下げ、未来世界を舞台にしたハードボイルドタッチのSF小説です。
監督リドリー・スコットはイギリスの王立芸術大学を卒業し、映画監督になるまで1900本ほどのCMを制作し、高く評価されていました。
映画「デュエリスト」ではカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞した経歴があり、またSFホラー映画の「エイリアン」を監督したことでも有名です。のちに「グラディエーター」でアカデミー作品賞を受賞することになります。
エイリアン予告編
『エイリアン』は宇宙船内でエイリアンに襲われた乗組員たちの死闘が描かれています。
グラディエーター予告篇
映画グラディエーターはローマ帝国軍の将軍だった主人公が皇帝の息子の裏切りによって剣闘士となってしまい復讐する物語です。
この予告編の映像センスを見るだけでもリドリー・スコット監督の作家性が伺えます。
実はリドリー・スコットはアップル社のCMも作っています。アップルらしいインパクトのあるCMなのでぜひ試しに見てください。
近未来都市のモデルとなった街
ブレードランナーの描かれる未来の退廃的な街並みは監督が創造したオリジナルのものでした。
それまでの未来世界のイメージは映画「2001年宇宙の旅」のように、クリーンで無駄を排除したシンプルなデザインで彩られる「モダニズム」の流れをくんだものが主流でした。
モダニズム文化とは、その多くは装飾のない直線的で、機能的、合理的なデザインの建物やデザインを言います。
日本では東京上野にある国立西洋美術館は代表的なモダニズム建築です。
他にもル・コルビジェの建築や
アメリカの旧マニュファクチュラーズ・トラスト・カンパニー本社ビルなど。
しかしリドリー・スコットはそのイメージを覆しました。逆にモダニズム文化を排除し、あらゆる文化の寄せ集めで彩られた退廃的都市空間を未来世界のイメージとして作り上げました。
ブレードランナーの劇中、街の中では常に雨が降っています。これはリドリー・スコットがイギリス西部出身であり、気候が1年を通して湿潤しているため、その気候が多くの作品において反映されています。
そして映画の街のモデルになった場所がこちら。
東京、新宿です。
リドリー・スコット監督はヨーロッパや欧米文化では考えられない雑居ビルとネオンの街並みに着想を得て新しい未来世界を見い出しました。
ヴァンゲリスの音楽
映画音楽を担当したヴァンゲリスはギリシャの音楽家です。
高倉健主演の南極に取り残されたタロとジロを描いた日本映画「南極物語」の作曲をしたことでも有名です。
また映画以外では2000年のシドニーオリンピックの閉会式でオーストラリアからギリシャへオリンピックの旗を引き継ぐ際の音楽と指揮を担当しました。そのほかにも多くの功績を残している世界的な音楽家です。
南極物語テーマ
シドニーオリンピックの閉会式
ブレードランナーの音楽を担当したヴァンゲリスは、その作品世界を構成する退廃的都市空間を美しい音楽をもって的確に表現しました。シンセサイザーを使用し幻想的で、未来的な雰囲気を醸し出しています。
ブレードランナーの愛のテーマ。
人間である基準はなんなのか?
ブレードランナーのストーリーにおいてレプリカントは寿命が4年しかありません。
寿命が短いにもかかわらず人間と同じ思考を持ち、しかし人間の奴隷として働かされます。
そんな状況がレプリカントに葛藤を及ぼし反乱を起こさせるのです。
葛藤や反乱は機械ではありえない人間独自のモノであり、映画の意図はレプリカントたちは人間としての存在を示唆しているのです。
主人公達はその彼らを排除しようとするのですが、その人間的なアンドロイドを殺しても良いのかという問題を観客に突き付けます。
他を排除しようとする暴力的な主人公こそが本来の人間じゃないのではないかという疑問すら抱いてしまいます。
ブレードランナーの退廃的都市空間のリアルな映像美と大人でも楽しめるハードボイルドな内容は多くの観客を魅了し傑作と呼ばれるようになりました。
単純に説明してしまえばこの映画は正義が悪を追うストーリーにSF要素が入った作品なんです。しかし、映画史、舞台、音楽、哲学など、いろいろな視点からこの映画の見る楽しみがあることに驚かされます。
ガラパゴス化している日本映画
SF映画は未来を描写するとともに映画において夢を語る重要な要素を持っています。
夢は理想であり希望であり、またブレードランナーのように儚く退廃としている場合もあります。
そんな未来を描写するために一歩先を行くような考え方こそが作られなければならないのだと思います。
イノベーションを図れる自由な映画という空間だからこそ何かに縛られた映画を作るべきではないのです。
現在たくさんの日本映画が作られていますが、日本映画は映画界においてガラパゴス化しているのかもしれません。
そんな日本映画の文化がこのグローバルな世の中で太刀打ちするためにはすでにパターン化した単純なセンチメンタル映画などより、世界に向けた日本独自の映画が必要だと考えます。
特にSF映画において日本は出遅れています。前に公開された実写版の宇宙戦艦ヤマトは何十年も前に作られた漫画を題材にし、アニメ文化から人気だけを借りてきた日本映画は衰退の一途をたどっていきかねません。
ブレードランナーのように新しい視点を取り入れ、未来を見据えた作品を創り出すことに意味があると思うのです。
古典SF映画の金字塔「メトロポリス」を監督したフリッツ・ラングはこういっています。
映画作家の最大の責任は時代を映し出すことだ。もし人々が未来を信じているならば作家側も信じなければならない、そしてもし人々が未来を作る道を模索しているならそれを記さなければならない
メトロポリス予告編
SF映画は人間の文化を映し出す鏡と言えるでしょう。
文化を映し出す鏡は常に磨いておきたいものです。
またそういった意味を考えるうえでも映画ブレードランナーは沢山の見方ができる良質なSF作品のひとつと言えるでしょう。
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